日本の人身取引の現状と被害者たち
「米国国務省が発表する人身取引年次報告書にて、2004年に日本は「人身取引の被害者の最終目的地になっている。」と指摘され、4ランクの下から2番目「第2ランク監視対象国」と評価された。この時、外圧もあり、日本として初めて人身取引問題を認知し、人身取引をなくすための行動計画が発表された。2016年の国務省の年次報告では、今もって「第2ランク」(=人身取引撲滅のための最低基準を十分に満たしていない)のままである。」(「サバイバー」マルセーラ・ロアイサ著・前書き「日本の状況を変えるための勇気に感謝を込めて」藤原志帆子より抜粋)
日本でセックスワークを強要されたコロンビア人女性の手記「サバイバー~池袋の路上から生還した人身取引被害者」(マルセーラ・ロアイサ著)をよんだ。1999年に来日した3歳の子どもを持つ21歳のシングルマザーの人身取引被害者の体験記である。彼女が来日したころにも、礼拝会の施設には教会や福祉事務所を通して多くの中南米の女性たちがいらしていて、その頃の彼女たちの体験談と重なる部分が多かった。その時も今回も印象に残るのは売る側の貧しさと、買う側の異常さである。どちらにも深い闇を感じてしまう。どんなに心身を傷つけられても、自国に帰るよりは日本にいる方が安全で生活が成り立つという彼女たちの国の状況。そして日本の男性が彼女たちに求める行為の異常さが、競争社会で追い詰められた人たちの心の代償の様に映る。
中南米から来られた女性を支援していく中でいつもたくさんの事を問いかけられてきた。その中で心に刻まれている大きなことは2つ。ひとつは彼女たちの国の貧しさである。「日本人の男性から顔が腫れあがるほど殴られるようなDVを日々受け続け、子どもがいじめにあって病気になりかけ、福祉事務所の担当者から不当な態度をとられ、支援者が危険を感じて「帰国」を勧めても、「自国は殺人や麻薬があり、子供も学校へ行けない。だから日本にいる」といって不安定な状態のまま日本にいる事を選ぶのである。もう一つは言葉や制度のわからない当事者と福祉事務所の担当者とのトラブルの多さである。特に日本の行政のきちんとした(杓子定規の)仕事が彼女たちの心を傷つける場合が多かった。もしかしたら今欧米で起こっている難民排斥の動きもこのようなズレの積み重ねから生じているのではないかと感じてしまう。
中南米やフィリピンの女性はほとんどの方がカトリックで私たちとは信仰でつながれる場合が多い。行政との関係が切れても修道院や教会には来て何かを分かち合う事が出来る。
現状はあまり変わっていない。そして日本では「NPO法人「ライトハウス」(人身取引被害者サポートセンター)の相談窓口にやってくるのは10代後半から20代の日本育ちの若年女性たちに集中してきている。警察庁が認知した人身取引被害者も、今では半数が日本国籍の若年層だ。金儲けのために、加害者は時代に合わせ、規制をくぐり抜け、性ビジネスの需要があるところに一番送り込みやすい被害者を送り込む。人身取引はビジネスなのだ。」(「サバイバー」マルセーラ・ロアイサ著・前書き「日本の状況を変えるための勇気に感謝を込めて」藤原志帆子より抜粋)
マクロレベルでは「制度、法律、ビジネス」、ミクロレベルで「こころや信仰」を深めながらシスターたちひとりひとりも、祈りを込めて、女性たちと共に歩んでいます。