⑥「礼拝会の教育学 第三章 価値の文化と礼拝会の教育学」
出発点:
価値の文化の概念
道徳の文化と価値
文化とは、ある教育的土壌や、実践を貫いている活動やスタイルの枠組という事が出来ます。そして文化はその構成員を包み込み、更にその共同体の雰囲気や風土の中で感じられます。
道徳の文化、又は価値の文化はその文化に属しているすべての人々、チーム、世話人、協働者などへ深い影響を及ぼします。濃密で、よく整えられた文化はそこに属している人々
に力を与えます。生きる力を強め、方法論のコツを教え、自己理解の体験へ招くのです。
礼拝会の教育学は、種々の形態のシェルター、短期、中期、長期的な同伴、自律や金銭管
ちが養成を受け、具体的な問題を解決するために、これら事業所にやってきました。しかし、それらの関係網や人間的な温かさは自己実現へと方向づけられた教育的プロセスを果たすようにと彼女たちを招いているのです。
ひとつの機関へのアプローチの視点
その教育学的デザインの意義を私たちが理解するのを助ける三つの視点があります。一つは機関の教育学的な器官、構造、路線を中心に据えた構造的な視点です。もう一つは、各プロジェクトのダイナミズムや活動を中心に据えた水平的な視点です。そして最後は、教育学的意味を示し、教育的モデルや施設のミッションを私たちに視覚化している横断的な視点です。
a) 構造的視点
構造的視点は、グローバルな形態である礼拝会という組織を私たちに見せてくれます。その視点によって、私たちが国家的な・国際的な構造を知り、組織の形態やミッションと教育学的スタイルの変容を理解することができます。様々な分野の仕事が、教育学に関連している路線、政治的な影響、未来の地平、その他の内的側面において、その路線全体を発展させます。それは、生活体験や共同体の教育的作業と同様に、疎外のコンテキストにある女性たちの状況へのミッションや分析から生まれてくる路線です。それらの路線とは現代世界の礼拝会のミッションに関する方向性です。そしてそれは後に、その領域、コンテキスト、事業所の具体的な各教育的グループの方向性にもなっていきます。[1]
b)水平的視点
それらの事業への水平的まなざしの中で目を引く側面のひとつは、仕事の量と種類です。この事業で促進されている全ての活動が女性への直接的な仕事ではありませんが、教育学的実践と同様に必要不可欠であることにすぐに気が付きます。この教育的グループは多くの時間を組織の問題や経済的、人的管理にかけています。それらの任務は膨大な量の仕事を産みだします。それはほとんど教育学的なものとしてみなされませんが、特に資金調達に関しては人間らしいグループにとって多くを占め、気になることです。今日、外部の資金調達がますます分割的になり、資金の管理と調達分野の強化を促進する側面という主要な必要条件なしでは、事業を維持できません。
水平的な視点は又私たちに女性に関する仕事の活動の多様性を可視化し理解させてくれます。その事業に近づいてみると、直接的介入の実践が2タイプあるということに気づきます。一つのタイプは個別的という特徴を持っており、傾聴、同伴、助言から女性たちが参加し主役となるための力をつける活動までとなります。もう一つのタイプは技術の習得、共同生活、共同体の中の関係性に心を配るグループ的な特徴を持つ活動です。つまりグループで行っている啓発や養成の仕事が目立ちます。それらは啓発活動、告発、社会啓発活動から、女性たちの現実を改善するための分析や調査のための特別なフォーラムやネットワークへの参加までです。
c)横断的な視点
横断的な視点は、総合的にひとつの機関を視覚化し理解させてくれます。前に述べた視点を含んでいるまなざしであり、ミッションや教育学的文化といった、よりグローバルな形でこの教育学を私たちに見せてくれます。
意味・実践・スタイル:ある文化の核となる要素
機関とは、時に要求が多く、時に緻密で、私たちを取り囲み影響を与えている複雑な手段です。私たちが上記で指摘しているように、ある機関の価値の文化は以下の3つの要素に関連している横断的な方式で視覚化して理解できます。それらはa)機関を形成している実践と作法のシステム、b)人々の間を横断して形成している関係網とスタイル、そしてc)前述した活動や関係を支えるための教育学的意味です。
これらの施設はただのきまりや実践ではありません。そのシステムはその機関のミッションや価値を自分のものにしている人々や関係性、形式によって保たれています。種々の教育学的スタイルは又様々な方法の実践の中に映し出されています。単独の動機、個人的、政治的コミットメント、各々が主観的に各々の女性へ奉仕するという唯一の形に関連しています。しかし人間性を与えてもらう事と承認の体験は唯一の体験によって生じるのではなく、ある事業の中で生きている協働の関係によって生じるのです。それらのスタイルは養い、教育し、実践システムに人間性を与える関係性の枠組みを作りだします。
意味はある機関の善であり、主な特性、価値の中心なのです。排他的に一人の独立した個人に頼るのでもなく、構造や制度的な文書に頼るのでもありません。具体的な仕事の方法論や形式として小さくまとめてしまうわけでもありません。意味はより包括的で組織的です。大切なのは、過去の遺産を含んでいても、仕事と相互関係の新しい実践を創り出す更に生き生きしとしたものであることです。教育学に取組む方法を見直し、そこに参加している人々の生活や体験に敏感です。その教育学的意味は生き生きとしていて、ダイナミックな要素をもち、実践を豊かにし、見直し、再建します。
意味はどの教育学をも一つにします。グループを方向づけ、より良くする地図なのです。すなわちある価値の文化に参加しているさまざまな状況や人々の独自性や違いといった特徴的な面をその型から横断的レベルへまとめるのです。
実践システム:女性への支援活動の集団
礼拝会の教育学において、多くの女性たちが、行動、内省、識別へと招く教育的環境の懐の中で参加と関係の体験を生きています。もし孤立した形で起こるならば、これらの実践と関係は影響力をもちません。その教育的特徴は、システムの集合体への参加やより高いレベルの自律や自己実現へと向けられた体験によって生じます。
最後に、実践システムの概念は柔軟な教育学へ私たちを近づけます。礼拝会の教育学では、教育チームは一般的なプランをただ続けるのではなくその活動を見直し、その計画を柔軟にし改善することが出来ます。それらの実践は、衛生部門の予防や社会的配慮、同伴など・・の広く種々の目的を追求しています。最初は衛生教育のためと思って始まったものが途中で傾聴の実践へと変わっていくのです。別離のためと思っていた実践が、識別の活動へと変容していきます。
システムとして考えると、機能しなくなった時、それらのチームのある実践を辞め、共同体の現状に合わせるように再適合させ、個人や社会の挑戦に調和した新しいデザインを発明していくことが出来るのです。複雑さ、ダイナミズム、柔軟さは、システムとして考え出される時、その教育学の教育的に高いポテンシャルについて説明します。
礼拝会の教育学の実践のタイプ
引き続いて、礼拝会の教育学における実践システムの全体像をお見せします。事業のすべての規定や実践のリストを示すことは繰り返しになるでしょう。だから私たちは特徴的な性質を集めたカテゴリーによってそれらをグループ分けすることにしました。
私たちが分かち合っている専門性の目的や領域を分析する事によって6つのタイプに分けることができます。全ての事業が同じ実践を提供しているわけではありませんし、全ての女性たちが同じ資源を利用している訳ではありません。しかしそのタイプは礼拝会が心にかけている方法論のイメージ全体を示しています。実践の6つのタイプとは以下の通りです。仲介の仕事、出会いの空間、養成とトレーニング、職業的社会復帰、居住型共同体、事業の管理。
- a) 仲介の仕事
仲介の仕事 に関して、専門家チームがその女性のおかれた環境と現実の中でその活動を展開している状況についてお話します。それらの女性と出会うきっかけとなる実践です。それは彼女たちのいる地域へのストロークであり、彼女たちが立っている通りへ接近する仕事です。専門家チームは2つの意味のある目的を追求しています。一つは売春が行われる環境とそこで働いている女性たちの現実を知ることです。もう一つは彼女たちと接触し、彼女たちの必要を知り、情報や手段を提供する事です。しかし、そのためには信頼の絆を作り、より個別的な活動が求められて行きます。
b)出会いの空間
出会いの空間とは女性への傾聴や追跡をする実践チームの事です。それは女性たちへの一連のプロセスの事を言っているのではなく、傾聴や助言のための習慣となっている実践や決まりごとの事です。それらはこのプロセスにおいて女性たちへの助言をするためのカギとなる広がりです。それには個別とグループの2つのタイプがあります。個別的な性格を持つ実践では、インタビューや個別指導の形式が強調されます。支援やいやしを提供したり、信頼関係を作ったり、情報や助言を提供したり、共同で評価したり、自己内省や自己投影を助けたりといった種々の目的があります。
c)養成と訓練
養成と訓練の空間は、事業所や女性の現状に合わせて、臨機応変に年間、週間の計画又は基準が必要です。そのグループの実践として、職業的な養成の現代化のために絶え間ない刷新をし、各クラスの授業内容や課程を改良していく作業が必要です。
d)職業的社会復帰
職業的社会復帰 の活動は、労働市場における女性の社会復帰を探る実践タイプに当たります。私たちは新しい職業分野へ変化を引き起こす長い目で見た活動と同様に、就職支援ための活動や作業について言及していきます。その良い例が社会復帰の行程なのです。このタイプの活動で私たちは又生産者組合や工場と同様に社会的企業の責任を促進するという活動にも出会うのです。より優れた職業的自立や彼女たちが参加できる入り口を増やすことが大切です。現在引っ張りだこの生産者組合や中小企業は、ケータリングや縫製です。
- e) 居住型共同体
居住型共同体 の空間は、共同生活を意味する実践タイプと人間的なグループの管理で構成されています。売春や人身売買、暴力の状況にある女性たちのために作られた保護施設、シェルター、アパートやその他の形式の住居やセラピー共同体で提供されている全ての活動と方法です。住まいを共にする事業は体験や感情を分かち合い共通の物語を作っていく共同生活の空間を意味しているのです。この中で私たちは又レクリエーションやお祝いもします。その時それらがもともと持っている意味のために行われる時、共同生活を強化し、グループ意識を盛り上げていくのです。そこには様々な宗教や文化の女性たちが一緒に生きていますが、だからこそそこで生きる全ての女性たちにとって意味のあるお祝いや出来事を祝う事はとても良い結果を生むのです。
f)事業の管理
事業の管理部門は組織内部の構造や活動、グループの管理、事業の経済的な資源に言及しています。又そこにはネットワークの仕事、他の施設との結びつき、調査に参加する様々な方法があります。
礼拝会における教育学的意味:愛、解放、出会い
愛は介入の原理であり教育学に人間的な温かい色合いを付加します。解放の原理は自己実現の道です。そして出会いの原理は近さとコミットメントの空間です。もし解放や出会いの道が無かったら愛の教育学は不可能です。同様に愛と出会いの経験によらなければ解放の教育学は不可能です。愛、解放、出会いは、この機関が招き、メンバーに影響を与え包み込んでいる意味の構造を形作っていく価値なのです。
その3つの原理とそれらの新しいダイナミズムは重なって同時に作用します。これから私たちは、それらのひとつひとつに時間をかける事によって、その豊かさや複雑さが明かになり、その独自性や日常の具体的な方法が見えるようになるでしょう。
私たちが扱おうとしているこの秩序は教育学的階層をもちません。すなわち一方が他方よりも重要であるというようなことはないのです。解放の実践よりも出会いの体験の方がより価値があるというようなことが無いのと同様に、解放よりも愛の方がより重要というわけではないのです。この3つの頂点は日常生活の中で同時に作用し、実践と人間関係を支える意味のネットワークを作っているのです。
引き続いて実践例やこの事業に寛大に参加しているシスター達、ライコス、女性達の声や証言を辿りながら、この機関の源泉や理論の下でそれらの一つ一つを説明して参ります。
[1] その視点は国際的性質を持つ一つの構造を明らかにします。それは種々の生活共同体と事業所をもったそれぞれの管区や地域で組織されているのです。その構造はひとつの総合的な方向性を全事業所が続けていかなければならないという縦関係で応えるのではなく、伝達された路線は各プロジェクトで具体化され自治維持していくということを分かち合う方向性なのです。この機関は、共同体の中の出来事に近づき、理解し、それらの事業所で一緒に仕事を進めるための自由な連携を備えているのです。